創世工房Low-Rewrite

「違うんだ。全ては誤解なんだ。彼らのくれた食べ物とは、生肉だったんだ。さすがにそれをそのまま食べる気にはなれなかった。
 そこで、枯れ枝と草を探して、どうにか火を起こしたんだ。その上で肉を焙っていると、やがて香ばしい匂いが立ち始めた。
 すると、彼らの仲間のうち一人がやって来て、何をしているのか尋ねたので、肉を焼いて食べるのだと答えたんだ。
そして火を起こすにはどうすればよいのかと、また尋ねられた。
 そこで一緒に説明しながら火を起こしたんだが、何を思ったのかそいつは火の中に手を入れてしまったんだ。
何しろ見ての通り、彼らは全身に毛皮を着ているようなものだから、たちまち火は彼の体に燃え移り、全身に広がった。 私達は、急いで彼の体に砂を掛けたり、転がして火を消そうとした。
 そのうち、彼の仲間が集まりだして、私達が彼を焼き殺そうとしていると騒ぎ出したんだ。そこに丁度、この族長が現れたので事の経緯を説明したんたが、信じて貰えなかった。
 一時期は捕えられて、我々が殺されかけたんだが、先ほど話に出てきた条件を受け入れることで、ようやく一命は取りとめ許されたということなんだ。
 今では、彼らと同じように生肉を食べ、手をついて歩いているという訳さ。もう、十年以上もそうしてきたから慣れたがね」
そう言って、半ば諦め顔をして話を続けた。
「ところで、君達はこの星にどうやって来たんだい? 君達も不時着したのかい?」
その質問には、隊員のリーダーが答えた。
「いいえ違います。我々人類は、この弟星にも無事に着陸できる性能を持った新型の宇宙船の開発に成功したのです。そして、再度この星の調査とあなた方の安否を確認する為に、こうしてやって来たのです」
「本当か! それならば、お願いだから一刻も早く私達を地球に連れて帰ってくれ。そうすれば、もうこんな格好をさせられながら暮らさなくても済む」
先ほどまで、うな垂れて諦めきっていた顔と眼が、輝き出した。

その表情を見て、隊員の一人が言った。
「皮肉なもんだな。双子星の両方に同じ種族が生息していたのに、兄星では地球の文明を受け入れて進歩し、
崇められていたのに対して、こちらの弟星では地球の文明を拒んで未だに原始的な生活を送り、従属させられていたなんて」
それを聞いた弟星の族長が、
「なんだと! 向こうの星にも我らと同じ者達がいるというのか。しかも、お前たちの文明とやらを受け入れて、我らよりも進んだ生活をしておるだと。そんなことは信じられん。もし本当なら、その証拠を見せてみろ」
と、凄い剣幕でまくし立てた。
 確かに、話を聞かされただけでは信じられなくても当然だろうということになり、兄星で記録してきた映像を見せてみることになった。
 一方で、今までこの星で従属させられて暮らしてきた隊員達は、一刻も早く地球に帰りたいとせがんだ。しかし、全員を宇宙船に乗せると定員をオーバーしてしまう。
 どちらにしても、一度宇宙船に戻り、地球の基地に報告をして指示を仰いだ方が良いだろうとリーダーは判断した。
 そこで、一行は族長と自分も一緒に行きたいと願い出た若者一名を加えて、まず特殊車両のある地点まで行き、そこから宇宙船に向かうことになった。
 特殊車両のあるところまで来ると、その物体を目の当たりにして族長と若者は驚いた様子で、これは何かを尋ねた。
隊員達は説明しても、わからないだろうと車内に二人を招き入れた。そして二人を乗せたまま、宇宙船に向かって進み始めた。
 族長は自分達が動いていないのに周りの風景が動いてゆくので、少し怯えた様子で固まってしまっているように身動きひとつせずにいたが、一緒に来た若者はむしろ未知の物に対して目を輝かせているように見えた。
 暫くして宇宙船が見えてきた。陽に反射して輝き、近づくにつれ岩山のようにそびえ立つ巨大な物体に、隊員以外の二人は茫然と眺めているばかりだった。
 到着すると、特殊車両を降りて船内に入るようにと二人を促して、その前後ろを隊員達が挟み込むようにして宇宙船の中に入っていった。
 隊員達のリーダーは、地球の基地に交信機で連絡をとり、弟星で消息を絶っていた隊員達も全員無事であることと、全員を宇宙船に収容して帰還するには定員を超過してしまうことを報告した。
 地球からの回答は、もう一台の宇宙船を弟星に向かわせるとの回答だった。もう一台の宇宙船がこの星に到着するまでには、日にちがかかる。
 そこで、到着するまでの間を宇宙船で過ごすことにした。その間、一人の隊員に、先ほどから押し黙っている族長と若者に、兄星での様子を撮影してきた映像を見せるように指示を出した。
 隊員がパネルに組み込まれた装置を操作すると、静まり返っていた船内の前面の壁に映像と共に音が響き渡った。






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