創世工房Low-Rewrite

死傷者23人、内15人が死亡、犯人は19才の男性で――
そのニュースは日本中を揺るがし、そして恐怖を与えた。
僕は人殺しの凶悪犯になり父は犯罪者の親という汚名を被り――
母は死んだ。皆死んだのだ。
被告の行為は非人道的であり、一切の弁護の余地はなく――
……よって被告を死刑に処す――
「……」
寒い牢、固いベッド……
「……ははっ」
こんな筈じゃなかったのに。
「終わり……か」
夢は最早叶うことはなく、望みは燃えてしまった家のように散ってしまった。
「……馬鹿だな」
もう、ボールを握ることすら出来ないのだろうか……僕は自分で自分を『殺した』のか。
出来ることなら野球をまたやりたい。ボールを投げて……
「おい、お前……出ろ――仕事だ」
死刑囚にも仕事はあるらしい。
「……はい」
当てられたのは、布と布を縫い合わせる単純作業。手先が器用な僕には簡単だったが――
「……嫌だ」
仕事を終わりたくない。このままずっと続けていたい。
「うっ……ぅぅっ……」
仕事が終わるたびに近づく死。タナトスに見初められた僕には――
結局仕事を終えて、刑務所の広場で空を見上げていた。日はまだ高い。
「……やぁ」
黄昏ていると、突然話しかけられた。声の方向には20代後半位の男性が立っていた。
「……やぁ」
一瞬戸惑ったが、とりあえず返事を返す。
「暇か?」
なんなんだこの男は……
「うん」
まぁ暇だが……
「よし、なら付き合え」
ボールとグローブを渡される。
「……?」
状況が飲み込めなかった。これはどういう……
「キャッチボールだよ、キャッチボール」
キャッチボール……キャッチボール……ああキャッチボール。
グローブを左手に、右手にボール。
「よし、こい」
男がグローブを構える。つまり……そういうことなのだろうか。
「ほら、こいって」
男がグローブを叩いて催促する。
「……じゃあ」
高校時代を思いだし……ボールを『放った』
「うおッ……」
驚く男、それもそうだろう。これでも剛腕と言われていたのだから。
「……お前、野球やってたのか?」
「……うん」
「なんでこんなところに……」
……
「いや、話したくないならいいんだ」
それっきり男は何も聞かなかった。ただボールを投げ合うだけ。でも……楽しかった。嬉しかった。またボールを投げれたことが。
気が付くと男の影が僕の足元にまで伸びていた――






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