創世工房Low-Rewrite

……どうやらタナトスは直ぐそこまで来ていたようだった。
「死刑執行日か……」
明日、僕は死ぬ。断罪の為に。それだけ僕のしたことは大きい。
「兄さんに言ったらどう反応するかな」
きっと兄さんなら……
「何黄昏てるんだ」
不意に背後から話しかけられる。
「に、兄さん」
噂をすればなんとやらだろうか。そこにはよく見知った人物が立っていた。
「ちょっと考え事してて……」
明日死ぬ、なんて言えるわけがない。

「そうか……」
「……」
二人の間に流れる沈黙。長く続くほど不安感に駆られる。
「……」
先にそれを破ったのは兄さんだった。
「……俺明日出所するんだ」
……え?
「えっ……そう、ですか……」
突然のことに思考が止まる。
「なに……また会いに来るさ」
笑いながら話す兄さん。でもそれは……無理なんだ。僕は罰を受けるのだから。
「(言わないと……でも……っ)」
「……ん?」
言わなきゃ駄目だ。言わないと僕は……
「……今日で僕も終わりなんです」
それでいい。
「……え」
「僕は明日罰を受けるんです」 「なっ……」
形容出来ない程の驚きを見せる。
「今まで……ありがとうございました」
ただ、今は早く言ってしまってこの場を去ってしまいたかった。長く話していると僕の覚悟が揺らぎそうになる。
「……」
……沈黙。
「僕、兄さんが居たお陰で残りの人生を真っ当に過ごせたんです」
言いたいことを纏め、話す。
「プロは無理だったけど……楽しかったです」
この三年間は本当に楽しかった。刑務所の中の方が外より鮮明に記憶されているくらいに。
「ああ……俺もだ、お前が居たお陰で退屈しなかったよ」
僕を見つめるその眼が、若干潤んでいるように見えた。
「兄さん……また会いましょう!」
泣きそうになるのを抑え込んで精一杯笑ってみせた。
「……ああ!」
気持ち良い返事……もう、悔いはない――


「……最期に言い残すことは」
僕は首に縄をかけられ、台の上に乗っていた。
ここには死刑執行人が4人。スイッチが4つ。その内のどれかが台の床を抜けさせる仕組みになっているのだろう。遺族の恨みを買わない為の処置だが……僕にそんな者はなく。
「……」
最期に……言い残すことか……
「もう一度だけ聞きます、最期に言い残すことはありますか」
ああ、本当に最期なんだな……
「ははっ……」
何故か笑えてくる。恐怖はない。
「無いんですか」
執行人が問いかけてくる。
「はははっ……いいえ、あります」
僕が言い残すこと、それはこれしかないだろう。

「……――――」

その直後執行人の手が上げられ、足元の床が抜ける。首に掛けられた縄は僕の命を……刈り取った。

ある日、とある男の元に一つのカセットテープが届けられたという。差出人は不明――



「ありがとう」






ダウトアナザー〜fin〜






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