創世工房Low-Rewrite

「今日も暑いな……全く」
隣に居る男……僕が兄さんと慕う男が手で扇ぎながら呟いた。
「ですね……」
天気は快晴、やかましく鳴り響く蝉の声。刑務所に居るからわからないが、外では海水浴やら登山やら……羨ましい限りである。
そんな僕の気持ちを察したのか、
「……外が恋しいのか」
「まぁ……でも、僕はもう出れませんけどね」
僕は死刑囚だから。死の刻印を押されてしまったから。
「……出れないこともないが……」
呟く男。
「……え」
「いや、気にするな」
そんなこと言われたら余計に気になるだろう。
「ぬ……そこのフェンスを見てみろ」
言われたまま、後ろに設置されている脱獄防止用のフェンスを見る。
うん、脱獄なんて無理だろう。
「それ、劣化が酷くてな」
そう言うと男は立ち上がり、フェンスを手刀で『斬った』
「んな……っ」
おいおい、いくら劣化が激しいからといって手刀で鉄製のフェンスを斬れるものなのか?
「この通りだ……まぁ直すがな」
斬ったフェンスを器用に元の形に整えてしまう。
「おおう……」
「昔ちょっとした武術を習ってたからな」
それにしても鉄を一刀両断とは……
「で、だ……お前は脱獄したいのか」
男が真剣な目で問いかけてくる。
「そ、そりゃまた外には出たいけど……」
「出たいなら出させてやってもいい、だが……わかるよな」
依然真剣なままで。
「……」
外には出たい。だが僕には償わなきゃいけない罪がある。それに……
「……出ません」
それが僕の答えだった。
「これ以上罪は重ねたくありませんしね、それに兄さんにも迷惑がかかる」
脱獄補助をしてしまったら男の罪も重くなってしまうだろう、それ以前に脱獄なんてしてはいけないし。
「ふっ……そうか」
男は口角を少し上げた。
「それに、兄さんとまだ話していたいですし」
「ふっ……」
照れ隠しだろうか、顔を少し背ける。
「……さて、そろそろ始めるか」
「はいっ」
今日も僕はボールとグローブを受け取る。
「いきますっ」
「おうっ」
投げたボールは太陽と重なり煌めいて見えた――






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