創世工房Low-Rewrite

「よっ、待ってたぜ」
次の日も男は居た。それが普通だという風にボールとグローブを渡される。
「よし、来い」
僕が野球経験者だということを知ったからか、キャッチャーの構えを取る。……辛いのか足が震えているが。
「……普通でいいですよ」
「これでもまだ25だぜ……これくらいなぁ……ぐっ」
やはり無理があったのだろう、その場に座り込んでしまった。
「普通で大丈夫ですって」
「お、おう……お、笑ったな」
無意識に頬が緩んでいた。
「やっぱり若い者はそうじゃなくっちゃな……って俺もまだまだ若いわっ」
「いや、何も言ってないですよっ」
自然に突っ込んでしまう。全く……だが僕は今、確かに笑っていた。
「……よし、来いっ」
先程とは違って、普通に構える。だがその眼は本気だ。
「……はいっ」
僕もそれに答えるように腕を振りかぶった……

「……いやぁ、良い汗かいたな」
タオルで汗を拭う男。
「……はい」
僕も汗だくだった。
あと後、ひたすら本気で投げ合っていたのだ、汗もかくだろう。
「楽しかったか」
男は此方を見つめている。
「……最高に楽しかったです」
本心であり、偽りではない心であった。
「それは良かった、俺は疲れたがな」
タオルを首にかけ、伸びをする。
「……はははっ」
何だか笑えてきた。
「何が可笑しい……ふふふっ」
男も笑いだす。
「ははっ……ふぅ」
やっと落ち着き、男に向き直る。
「……ん」
不思議そうに此方を見る。
「ありがとうございます……兄さん」
「いやいや……って兄さんだぁ!?」
不意に変な呼ばれかたをされ、すっとんきょうな声をあげる男。
「駄目……ですかね」
男の影が、今は無き兄に重なって見えたのであった。
医者を目指していた兄。誰に言われたのでもなく自分の意思で。
「誰かを救える……それってとても素晴らしいことだと思わないか」
それが兄の口癖だった。……そんな兄も自らに刃を突きつけてしまったのだが。
「べ、別に駄目じゃないが……」
頭を掻き、明後日の方向を見る男。
「なら……兄さんっ」
「お、おう」
不思議な関係が始まったのであった。






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