創世工房Low-Rewrite

「なんだ、あの大きな星は!」
「あれは、先ほどまで我々がいた星、つまりあなた達が暮らしていた星ですよ」
すると、族長も若者も大変驚いて、
「そんな筈はない。我らの暮らしていたところは平らだったではないか。それにあんなに大きくはないはずだ」
「大きいと地面からは丸いことに気付かないものですよ。それに、今大きく見えるのはまだ星の近くにいるからなんです。
遠くの物は小さく見えるでしょう? 向こうの星に近づけば、向こうの星の方が大きくなり、こちらの星が向こうの星と同じくらいの大きさに見えるようになりますよ」
と、リーダーが答えた。
 しばらくするうちに、弟星は段々と小さくなって行き、代わって兄星が目の前に大きく見え出した。
 リーダーが言ったとおりになったのを見て、族長は唯その光景を黙って眺めているだけだった。若者はというと、リーダーに好奇の目を寄せているようだった。
 やがて宇宙船は兄星の軌道に乗り、周回を始めた。リーダーが着陸の体制に入るようにと隊員達に指示を出した。そして族長達にも
「もう少しで向こうの星に到着します。着陸の時に多少の衝撃がありますから、出発した時のようにしっかりと椅子に座ってベルトをしてください」
と、わかり易く言った。族長と若者は黙ってリーダーの指示に従った。
 宇宙船は、徐々に角度を変えて兄星に突入を開始した。大気圏に入ると、エンジンが減速する為に稼働し、ゆっくりと兄星の地表に再び着陸したのだった。
 着陸した地点は、以前に着陸した場所よりも兄星の種族の暮らす場所に近いところであった。これは、以前やって来た時のデータを補正してより近くに着陸地点を設定したからである。
 リーダーは隊員達に宇宙船に損傷が無いかを確認させると、無事に到着したことを地球の基地に報告し、族長達にもそのことを告げた。
「さあ、到着しましたよ。ここからそう遠くない場所にあなた達と同じ種族の方々が我々の仲間と一緒に暮らしています。そこまで、一緒について来てください」
そう言い終えると、船内から出るように促した。

船内を出ると、族長達は辺りをきょろきょろと見回した。そこには、宇宙船の着陸した音を聞いて兄星の住人が早くも集まって来ていたのだ。自分達の暮らしていたところと景色が変わらないことや同じ姿をした者達に気付いて、
「なんだ、此処は宇宙船とやらに乗る前にいた我らのいたところではないか。その証拠に我らの仲間もいる。また怪しげな術で我らを欺いたな」
そう言った族長に、リーダーはこう言い返した。
「本当に此処があなた達の暮らしていた星だと思いますか? 仲間と思っている者達を良く見てみなさい。みんな二本の足で立ったり、歩いたりしているでしょう」
そう言われると、確かにどことなく様子が変であることに気付いたようだ。
 そうこうしていると、兄星の族長が残った隊員達と一緒に姿を現すと、
「おや、随分とお早いお着きですね。もう地球から新しい人達を連れていらっしゃったのですか?」
「いや、まだ地球には帰っていないのですよ。実は、此処から我々の弟星と呼んでいる向こうの星にやはり、調査と消息を絶った仲間を探しに行くことはお話しましたね。
その弟星に着いてみると驚くことに、あなた方と同じ種族の方達が暮らしていたのです。そして、我々の仲間も無事に生きていました。
 ですが、その種族の方々は我々のことを信用してくれないのです。そこで、あなた方の話をすると、自分達の目で見るまでは信じられないと言い張るのでこうしてまた、此処にその方々の代表をお連れしたのです」
リーダーはそう言って、弟星の族長達の方を見た。
 その視線を伝うように、同じく兄星の族長もそちらの方に目をやった。すると、そこには、自分達と確かに同じ姿をした者が二人いるではないか。
「おお、するとこちらの方々は、向こう側の星からやって来たという訳ですか。なるほど我らとそっくりだ!」
と、驚いて言った。
「しかし、どうして地球から来たこの人達のことを信用なさらんのです? この方達は私達にない文化を持っておられる。
そのおかげで、我らの生活は以前に比べて豊かになりました。そうだ、その生活ぶりをご覧にいれましょう。どうぞついてくだされ。皆さんもお疲れでしょうから一緒にこちらに」
そう言うと、兄星の族長一行は集落のある方向へ歩き始めた。もちろん二本足で。
それを見て影響されたのか、自分達も二本足で歩けることを証明したかったのかは、わからないが弟星の族長と若者も二本足で歩いて後に続いた。
 それを見た隊員の一人が、
「どうやら、此処が本当に自分達の星ではなく、兄星だと信じてもらえたみたいだな。
それにしても、自分達の星ではあんなに嫌がっていた二足歩行を自らするとは、自分達が劣っていると思われたくないという同族に対するライバル意識なんだろうか」
と、言いながら後を追った。
 しばらく歩くと集落に着いた。そこには、宇宙船のモニターで見た映像と変わらぬ光景があった。
洞窟ではなく建物が建ち並び、皆が二本足で歩き、火を使って料理をしているのだ。
 隊員達は、一度立ち寄って目にした光景なので気にも留めずにいたが、弟星から来た族長はというと、
現実に目の前で行われている光景が未だ信じられないといった顔つきで、しばし呆然と立ち尽くしていた。
若者の方は、逆に興味をそそられたようで辺りをキョロキョロと見回していた。






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