創世工房Low-Rewrite

そして、土をこねている者に目が留ったようで、しばらくその場で眺めていたが、やおらその者の近くに行き、自分にもやらせて欲しいと言い出した。
土をこねていた者も拒むことなく、若者に指導するように一緒になって作業を進めた。
 土をこね終わると、次はその土を使って形を作り始めた。若者は呑み込みが良いのか、見よう見真似で一つの器の形を作り上げた。
その作業が面白かったらしく、その次は何をするのかと兄星の者に色々と話しかけていた。
 話を聞き終えたらしく、次は土が乾き固まってから火で焼くのだとわかると、元の場所に戻って来ると弟星の族長に、
「なかなか面白いですよ。族長もやられてみてはいかがですか?」
と勧めた。
 すると、弟星の族長は急に腹を立てたようで、
「そんなに軽々しく真似したりするでない。もし、危険なことがあって怪我でもしたらどうするつもりだ。
それに、自らの生き方に誇りを持つのが我らであろう」
そう言ったかと思うと、二本足で立っていたのを止め、弟星に居た頃のように地面に手をついてしまった。
若者はシュンとなり、族長に従うように自分も二本足だけで立つのを止めて、手を地面につけた。
 その様子を見ていた兄星の族長が、静かに口を開いた。
「何故、そのように地球から来た方々の文明を拒みなさるのですか?
 便利になる物、豊かになることを学び入れることは、自分達にとっても向上心を呼び起こすようになり、やがては自らの心にもやればできるのだという希望の光を宿すことになるのではないでしょうか。
決して、あなたの仰るような誇りを失うしか捨てることにはならないではないですか?
 まあ、それにすぐに決めつけることでもありますまい。少しゆっくりと我らと生活を共にして、それでもなお、あなた方の生活のが良いと思われれば向こうの星に帰ってから、
今までの生活を続ければ良いし、こちらでの生活のが良いと思えたなら地球の方々の文明を受け入れれば良いではないですか」
 そう言われると、弟星の族長も返す言葉が見つからないようで黙ってしまった。地球から来たリーダーを始め隊員達も皆、弟星の族長の言葉に感心した。
 そして、リーダーがこう言った。
「なんて素直で謙虚な心構えだろう。我々人類は宇宙に進出して久しいが、未だに我々人類を超える文明に出会っていない。
 もし、彼らのように自分達を上回る文明を持つ生物に遭遇したら、どちらの星の種族のような反応を示すだろうか?
 恐らく、弟星の種族に近い振舞いをするかもしれない。いや、もっと攻撃的な態度をとるだろう。何しろ、自分達が一番優れていると思っているからこうして、他の星にも進出して来ているのだから……」
それを聞いた隊員の一人が、
「もしかしたら、弟星の種族の方がまだマシかも知れませんね。少なくとも、星全体の価値観や思想が一致している。
これから、我々の文明を受け入れるにせよ、受け入れないにしても、こうして星の内で価値観や思想が一致している間は争うことはしないでしょう。
 それに引き換え、我々人類は未だに国と国、或いは思想の違いからの争いを繰り返している……
 こうして、他の星の生物に出会うことによって、我々人類も学ばなければならないことが多いのでしょうね。それらを受け入れることで、我々人類も精神的な進歩を遂げて行かなくては」
その言葉に他の隊員達も黙って肯いていた。すると、弟星の族長が、
「何! お前達の星では仲間同士で争っているのか? 我らの星では、そんな争いなど起こらないぞ。何しろ、私の言うことに皆が従うからな」
と、口を挟んだ。
「今はそうかも知れませんが、新しいことや自分達と違う考え方を受け入れずに排除しようとすれば、いずれは新しいことや違う考え方をする者が現れて、それに賛同する者達も増えるでしょう。
 そうなればお互いに自分達の考えが正しいと主張し合い、争いが起こるのです。現に、若者はこの星の文明に興味を示しているではありませんか。
このまま此処に滞在している間にその気持ちを強く持って、あなた達の星に帰った後にこの星での出来事を他の者達に話したら、その話に興味を抱く者も出てくることでしょう。
その時になっても、あなた自身が我々の文明を拒み続けていたら、それもまたあなたを支持する者も出てくるでしょう。
そうなった時に争いは起こるのです。争いが一度でも始まると止めることは難しいことなのです。
 ですから、族長あなた自身も物事を先に決めつけることをせず、良いと思われることは素直に受け入れられる心の広さと、その恩恵を授かったことに対しては感謝する謙虚さが必要なのですよ」
 リーダーは、自らにも言い聞かせるように、そして周りの者達にも訴えるような口調で答えた。その後、しばらく間をおいてから話を続けた。
「確かに我々の住んでいる地球では、今も争いが絶えません。それは、今話したことをほとんどの者達が分かっているのですが、
どちらも意地を張って悪いところや劣っているところを認めようとする謙虚さを持たず、自分達の方が正しいとか優れていると思い込もうとして、お互いの良いところを認めて受け入れようとしないからです。
 ですから、我々の悪い面まで含めた文明全てを受け入れろとは言いません。この星の方々のように、良いことを見抜く心の眼の正しさを持って、その良いと思われる事柄を受け入れるかどうかを考えてみて欲しいのです。
 そうすれば、我々の悪い面の影響を受けることなく、争いのない平和で豊かな生活に進歩して行けるのではないでしょうか」
話を聞いていた弟星の族長は、何やら考え込んでいるようで返事はなかった。
 それ以後この話題に触れることもなく、兄星に滞在して月日が経ち弟星の族長と若者も、兄星での食事や生活にも慣れた様子で、
到着した当初の頃のように驚いたり、警戒したりすることもなくなり、族長からしてまるで兄星の住人のように振舞うようになっていた。
 リーダーは、もうそろそろ良いころ合いだろうと考えて話を切り出した。
「どうでしょう、これでこちらの星にもあなた達と同じ姿をした方々が住んでいることや、我々の文明を取り入れた生活を営んでいることをおわかり頂けたでしょうか?」
「うむ、こうして目の前に見せられては十分過ぎるほどだ。認めざるを得まい。しかし、我らの星の者達がどうしているか心配でならんので、早く我らの星に帰りたい」
そう答えた弟星の族長の目には、もう疑いの色はなかった。
 そこで、リーダーは弟星に戻ることを決め、隊員達にもその旨を伝えた。そして、兄星の族長に対しては、
「どうもお世話になりました。おかげで向こうの星から来た者達にも、あなた方のことをわかって貰えたようです。
本当にありがとうございました。我々は、また向こうの星に彼らを連れて戻った後に地球に帰ることにします。
 もし、次に宇宙船がやって来た時は、この星で一緒に暮らすことを希望する者達ですのでどうぞ快く迎え入れてやってください」
そう言って、お礼と願いを述べた。
 そして、弟星に戻るために宇宙船に一行は乗り込んだ。その際に、弟星の族長と若者は自らが作成した器を数枚持ち帰ることにした。こうして、宇宙船は弟星に向けて旅立った。






←前の章   戻る   次の章→