創世工房Low-Rewrite

被告を懲役3年の刑に処す――
俺は牢獄に居た。あの後自首し、全てを告白したのだ。
幸い、詐欺で得た金は一切使っておらず、騙した人達に全てを返却して謝罪した。
そして罰を受けここに居るわけだ。
「……やっぱり退屈なものだな、牢獄ってのは」
小さいベッドにトイレに洗面台。最低限の物だけが置かれている。
「時間か……」
全ての牢屋が開かれる。仕事の時間だ。
お前はここで……そっちのお前は向こうだ――
監守達が囚人達を誘導して職場へ向かわせる。俺には手芸の仕事が与えられた。あまり細かい作業は得意ではないのだが……
黙々と布を縫い合わせていく。慣れてくるとなかなか楽しいかもしれない。
「おみゃあは何をしてこんな場所に来たんじゃ?」
ふと横を見ると大柄の男が立っていた。髪は殆どが白く染まっている。かなりの高齢のようだ。
「……人を騙して金を盗っていたのさ」
別に隠すことはない。ここにいるのは皆同じような奴等なのだから。
「しょっぱいのぅ……そんなことぐらいで捕まるとは」
大柄の男は、器用にも作業しながら話す。かなり手慣れているようだ。
「じゃああんたはどうしてこんな場所に居るんだよ」
詐欺をしょっぱいと言ったからには相当なことをしたに違いない……。
そう思って聞いたのだが、
「わしか?わしはな……何もしとらん」
何もしとらん?つまりなんだ、無実の罪で――という奴か。
「無実なら再審でも申し立てればいいじゃないか、それとも本当は何かしたのか?」
冤罪なんて今の時代そう発生する訳がない。科学捜査の発展は著しいのだ。
「何年もやっとるわい……それでも通らんのだがのぅ」
男の話では、二人の人間を殺害した罪で、終身刑に処されているらしい。だがそれは冤罪で、男はその二人とは面識すらないという。
「向こうに物的証拠はないんじゃが……わしの無実を証明するものもまた無いのでのう」
男は笑っているがその瞳には暗い色が浮かんでいる。それはそうだろう。いくら頑張っても無実を証明するものなんて簡単に見つかる訳もない。
「だがわしは諦めんよ、例えここから出れなくても真実を訴え続けることが大切なのじゃからな」
途端に暗い色は消え、瞳に力が宿る。
「だが長年居るとここもなかなかに居心地が良くてのう……ここに居る奴等は人間味に溢れておるし」
確かにそうかもしれない。陽気そうに話す奴等。ひたすら作業に集中する奴。時には囚人同士で喧嘩も起こる。ここには犯罪者は居ても機械は居ないのだ。
「さて、作業に集中するかのう、おみゃあもここが地獄だなんて思っちゃいかん、むしろここは天国かもしれないのじゃから」
そう言うと男は、縫い終わった布を持ち何処かへ消えていった。
「ここが天国……か」
男が言っていた言葉を、一つ一つ思い出して記憶していく。確かにそうなのかもしれないな。居心地が悪いわけでもないしそれに……ここには俺が忘れていた大切なものを思い出すヒントがあるような、そんな気がする。
「また話を聞かせてほしいな……」
そんなことを呟く。勿論男は既に何処かへ行っており聞こえるはずもないのだが。 ……人と話をしたいと思ったのは久しぶりだな。
自らの仕事を終え、牢に戻るとはめ殺しの窓から沈む夕陽が見えた――






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