創世工房Low-Rewrite

「はぁ……」朝から何だか疲れた。
「どうしたのせい君、溜め息最近多いよ?」彩華……今日のはお前が原因なんだぞ……
あの後、どうやって彩華の目を誤魔化して、桜芽が俺の中に戻るかで朝から頭を使わされた。俺と桜芽はあまり離れることが出来ないし、だからといっていきなり俺の中に戻っては彩華が不審に思うだろうからだ。結局、彩華がトイレに行った隙に上手く戻ったのだが。
「いや、ちょっと憂鬱なだけさ……」今の心情は俺の名前とは正反対にどんよりとした曇り空であった。
「ん……何かあったら相談してね?私に出来ることなら手伝うよ」ならまずは俺の家の合鍵を返してくれ……
何故、彩華が合鍵を持っているかというのは、また別の話。
『……っ!せい、伏せろ!』突然、桜芽が警告を発する。
「えっ……」考えるより先に体が動く。隣の彩華を半ば無理矢理伏せさせ、自分も伏せた。その時……
強烈な風が駆け抜け、その後を黒い霧が押し寄せてきた。
「なっ……」
『動くではないぞ……』桜芽が何かしてくれているのか、黒い霧は俺達を襲うことなく通り抜けていく。
『……もう、大丈夫じゃ』桜芽の声から緊迫の気配は消えていた。
「今のは一体……?」一瞬だが、黒い霧の中に見慣れた……いや、もう見たくはない『数字』が浮かんでいたのが見えた。
「死期の……悪霧」桜芽が姿を表し、聞き慣れない言葉を言う。
「うかつじゃった……まさかあの桜に蓄積された死期の願いが彼処までとは思わなんだ……」
「……どういうことだ?」
「わっちが憑依してた桜はな……この町の不条理な死期をその身に受ける……霊桜だったのじゃ」神妙な顔で語り始める桜芽。
「何故そうなったのかと言うとな……とある者の強き願いによって桜にわっちが産まれたからじゃ」そう言えば桜芽は願いから産まれた悪魔とか言っていたな……
「わっちは死期の悪魔……願いに基づき、不条理な死期を桜に封印していた」死期を……封印?
「その死期の番をしていたわっちが憑依対象をお主に変えたことで封印されていた死期の願いが風となって、霧となって発現したのじゃろう……」
「ちょっと……待てよ?それってつまり今の霧は……」
「死期そのもの……触れたものに死の宣告をもたらす霧じゃ」
とっさに辺りを見渡す。道に立ち並ぶ樹木。空を飛ぶ烏。何もなかったかのように歩く学生……
その全ての上に、死期が浮かんでいたーーーー






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