創世工房Low-Rewrite

結局、学校に来てしまった。
「……願いって、要するに強い想いのことなんだよな」側に誰かいる訳でもなく……それはそうだ、何故ならここは屋上。それも授業中だからだ。
「……教室に行かなくてよいのか?」桜芽が側に現れる。
「流石にクラスメイトの死期を見る覚悟はまだねぇよ……」教室に行けば、クラスメイトが居る。それに羽流も。皆恐らく……
「そうじゃな……恐いのはわかる。だがそれでは願いなど集まらんぞ」至極当たり前だ。死期を見てしまうのを恐れては、願いを持たせることも、強めることもできないだろう。
「……と言ってもなぁ、どうやったら願い……強い想いなんて持たせれるとのやら」全然見当もつかない。しかも期限が限られてるときた。
「まぁのう……一時的でも強い想いが生まれれば、わっちの力も強まるのじゃが……」
「一時的でも、か……ん?」
ふと、町の商店街の上を飛ぶ浮遊物……アドバルーンが目に映る。
「夢見町桜祭……そうか、もうそんな時期か」
俺達の住む町、夢見町。この町では、四季ごとに大きい祭が開かれる。春は桜祭、夏は竜宮祭、秋は紅葉祭、冬は晴雪祭だ。それぞれかなりの賑わいを見せ、桜祭では町の学校から様々な催しが……
「……!これはいけるんじゃないか?」
「……ふふ、流石じゃのう。その考えなら皆に強き想いを持たせるのも夢ではないの」
授業終了のチャイムが鳴り、昼休みを告げる。そして次の授業はLHR……
考えるが早く、立ち上がると俺は職員室に向かった。
「先生!」
「あれ、響さん……遅刻ですか?」
頭の上に浮かぶ『10』という数字に目眩を感じるが、今はそんなこと気にもならなかった。
「先生、桜祭に出ましょう!」
「……へ?」突然の俺の言葉に、疑問符が頭に浮かぶような、困惑の表情を見せる。
「桜祭ですよ、桜祭!このクラスも出ましょう!」実はこの学校からも何クラスか出ることが決定している。
「さ、桜祭ですかぁ……? ……はい、それは良いですね!」未だ戸惑ってはいるものの、桜祭に出ること自体は賛同してくれた。
「でも出るといっても何をするんですかぁ……?」
桜祭は町民全員で作り上げる自由な祭。故に様々なパフォーマーが集まることでも有名だ。
「それは……」
「それは……?」
「『演劇』です!」
これなら強い想いも生まれる……!
「演劇ですかぁ……面白いですね!枠はまだ空いていますし……LHRで話してみましょう!」
「先生、ありがとうございます!」深々と礼をする。
「うわわわっ、どうしたのですか響さん……ほら、頭をあげてくださいな。先生はとても面白いと思いましたよ?」天使のような笑顔だった。目が開けていられないぜ……
「ありがとうございます!」再び、深い礼をし、職員室を出た。

「……あ、せい君!」教室に入ると、彩華が俺を見付けて、声をかけてくる。
「全く……重役出勤とは、いつの間にそんな身分になったんだ、せい?」ワンテンポ遅れて、羽流が皮肉を言ってきた。その頭上にはやはり『10』
「……少し考えることがあったのさ」
「……ふん、まぁいいだろう。どうせ俺の……いや、俺達の頭の上に浮かぶこの数字のことだろう?」
「……やっぱりお前も見えるんだな」俺が死期を見えるようになったのは小学5年の頃……
その頃は、俺と羽流と彩華。何時も色んな場所に冒険と言っては遊びに行っていた。そんな日々のとある昼下がりのことだ。
「早く早く!あの丘の上まで競争だよ!」幼き頃の彩華が、桜立ち並ぶ坂道を駆け上っていく。
「おい、待て……全く」今と全く変わらない口調の羽流。
「まぁ、彩華だからな」そんな話をしているうちに、どんどん遠ざかっていく彩華。
「さて、俺達も行くか……」
「だな」
俺達も走り出す。
「ほらほら早くー! ……えっ……?」突然、彩華の姿が桜の裏に消えた。
「彩華……!?」焦って、桜の裏を覗いた羽流の姿も消える。
「なっ……」俺も桜の裏を覗くと、そこには……
「助けて……」羽流が彩華を掴んでいた。当時、学校裏の丘、その頂上の桜の裏の視覚は崖になっていたのだ。
「彩華っ……」俺も彩華を引っ張る。だが子供の俺達には人一人引き上げることすら難しかった。それが例え同年代だとしても。
必死で引っ張る俺達。だが、それも虚しく俺達ごと崖に引き込まれていく。
「くそっ……せい!もっと力を……」
「わかってる! ……くぅっ……」
幾ら力を込めても重力には抗えない。
「……ごめんね……」
「「え……?」」
手が振りほどかれ、彩華は遥か下の地面に叩きつけられた。響き渡る嫌な音。泣き叫ぶ俺達。駆けつける住民達……
俺達は願った、彩華を救ってくださいと。
俺達は言った、その為なら俺達はどんな枷でも背負うと……

「やっぱり、せいもだったんだな……」
「ああ……」
俺達が背負った枷……それが死期が見えてしまうことによって感情が削られ続けるということだったのだ。






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