創世工房Low-Rewrite

演劇の内容は、よくある冒険活劇のようなものだった。拐われた姫を、一人の兵士が助ける……全く、普通すぎて面白くもなんとも――――
「そこっ、もっと声を出す!照明はもっと上を照らせ!」
「「ハ、ハイィ!」」
……だが、クラスは燃えているようだった。特に演劇部の人と……
「せいっ、台詞に感情が入ってないぞっ!」羽流が。
「お、おう……ん、んん……」俺もちゃんとやらないとな……
「フハハハ……一介の兵士ごときに我を倒せると思うなっ!」悪役がこれまた平凡な台詞。
「一介の兵士でも……姫を想う気持ちは誰にも負けぬ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」嗚呼、恥ずかしい……
苦笑確定の台詞を言いながら、作り物の剣を鞘から抜き放ち、高笑いする悪役に一閃。
「甘いわっ!」どういう仕掛けなのか、目の前に居た悪役がローブのみを残して消え去り、瞬時に背後に現れる。流石演劇部。
「なにっ……まだまだぁっ!」なんでこう、恥ずかしい台詞ばかりなんだ……?最早先生のセンスに疑問を覚えながらも、左手で鞘を持ち、後ろに飛び退きながら半回転し、鞘と剣を同時に叩きつける。なんだこの無駄なアクションは……
「なに……?面白い、面白いぞっ!よろしい、ならば我も本気で迎え撃とう……来い、兵士よ!」悪役は派手に吹き飛び床を転がったあと、これまた恥ずかしい台詞……のはずが流石演劇部。何故かかっこよさを感じる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」最早やけくそだ。剣を構えて突撃する。それに応えて悪役も突撃。衝突する寸前というところで、照明が全て消え、暗闇に包まれる。その数秒後……
「グァッ……」照明が戻り、悪役の呻き声。
「やった……のか?」剣を構えたまま、悪役を見据える。
「まさか……ここまでとはな……ふふ、たかが兵士と侮っていたわ……」悪役が懐から、鍵を取りだし俺に投げる。
「好きにしろ……我にはもう、お前を倒す力は残ってはいない……」
「……」黙って舞台袖にフェードアウトする俺。
「ふふっ……これが我の末路か、兵士……」そのばに悪役が崩れ落ちる。

「カァァァァァァット!」すっかり、映画監督気分の先生。
「はぁ……疲れた」アクションが無理矢理過ぎやしませんか、この劇……後ろに飛び退きながら半回転ってどういうことですか……
「お疲れさま、響くん」悪役の演劇部員が声をかけてくる。
「そっちこそ……にしても凄い演技だな」吹っ飛んだ時は本気で心配させるほどだった。
「僕は演劇部だからこれくらいは当たり前だよ。僕は響くんの演技……というかアクションに驚いたけどね」多分飛び退き半回転のことだろう。
「ははは……腰が痛いぜ」
「察するよ」爽やかに笑う演劇部員。俺も笑った。なんかこういうのって……いいな。
「にしても、最後のシーンは別に練習ってどういうことなんだ?しかも合わせるのは本番って」
「僕もそれは不思議に思ってたんだけど……今の先生に何聞いても意味なさそうだからね」苦笑する演劇部員。そして先生はというと、
「ここはもっとこうなのですよ!そしてあそこはこう!」……熱血の監督と化していた。
「あはは……」こりゃ、大変そうだ……
『せいよ、無理するでないぞ?かなり疲れているようじゃが』心配の声が頭に響く。
(大丈夫だ……俺が頑張らないと、皆は救えない)
体育館で練習している生徒。先生達の上には『8』
あれから二日が経過したのであった。
『だか御主が倒れては意味があるまい……少しは休め』
(はは……まぁ、大丈夫さ)
ここが踏ん張りどころだ。






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