創世工房Low-Rewrite

もう3日前まで迫った桜祭。
誰もがやる気に満ち、誰もが成功の拍手を想像していた――
――ギィ……ガーガガガ……
「……何の音だ……?」
何やら、金属が擦れるような音が頭上から聴こえたような気がした。
「……気のせいか」
きっと疲れているんだ。そう割りきり、大道具を作る作業に戻った。
――スゥー……ズズズズ……バキッ
「なっ……!?」
突然、固い何かが折れる音。俺はほぼ、本能的に上を見上げた。
「……っ!逃げろォォォォォォォォォォォォッ!」
それは瞬間的に、咄嗟に出た言葉。五感が警鐘をならし、心臓が早鐘を打つ。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
何が何だかわからずに、ただ俺の声に危険を察知したのか生徒が一目散に体育館の外に逃げる。俺も逃げようと視点を体育館の外に向けようとしたその時だった。
イヤホンを着けて作業をしている女子生徒が体育館の中央に居たのだ。
「チッ……!」
いいから逃げろと本能が訴える。今彼女のもとに向かったら――
「さっさと行け!」
そんなものは無視して、女子を無理矢理立たせ背中を出口の方へ押す。状況を把握したのか逃げていく女子。
――ゴゴゴ……ガッシャァァァァァァァンッッ!
その時、天井から鉄骨が降り注いだ……位置は、先程まで女子生徒が居た場所……つまり。
「ぐあっ……」
降り注いだ鉄骨が俺の体に衝撃を走らせる。形容詞が見つからないほど嫌な音が体から響き、巨大な鉄骨を赤く染め上げる程の血液が飛び散り、床に叩きつけられた。
『――せいっ!?』
脳内に響く誰かの声。吹き飛ばされた時に頭を打ったのか、それとも大量の出血のせいかは分からないが意識が朦朧として誰の声かもわからない。
『この……馬鹿者が……』
「……はは……ごめん、な……」
声の主の事が認識できないまま、俺の意識は遠退いていく。
『くぅっ……こんなの……駄目じゃ……駄目なのじゃ……』
ごめんな、誰かさん。俺にはわかるんだ、助からないって。
俺には自分の死期も見えるからな。
『許さんぞ……こんなところで終わるな、せいっ!貴様はこの町を救いたいのじゃろう!?その貴様が自分自身を救えなくてどうするのじゃ……っ』
救いたいよ……だけどこんなの、俺にはどうにも出来ない。
俺の右腕は無惨に引き裂かれ、脇腹はまるごと削がれてしまった。今意識があるのも奇跡みたいなものなのだ。
「ふざけるな……ッ!誰が死なせるか……お前の人生は私のものなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
いつのまにか脳にではなく、耳に届いたその声。
「はぁ……はぁ……願え、生きたいと!願え、救いたいと!」
……何を言っている……?
「わっちは願いから産まれた死期の悪魔じゃぞ!?だから願え! ……せいっ!」
唇に柔らかい感触。最早俺にとっては馴染みぶかい温もり。
……ああ、そうだった……俺はこんなところでゲームオーバーなんて出来ないんだ。
俺の死は……即ちこの町の死。
そんなことは……絶対に嫌だ。
「お、れ、は……い、きた……」
「な、なんじゃ!聞こえな――」
「俺は……生きたい!」
力を振り絞って叫ぶ。脳が揺れる。耐えきれなかった肺が痛む。
「……よく言った!せい!」
次の瞬間、俺の意識は深淵に沈んだ。

「……ここは?」
「せ、せい君! よかった……よかったよぉ……」
いつの間にか俺は、ベッドの上に寝かされ、隣では彩華が涙を流し、羽流が俺を見つめていた。
「……全く、無茶するな、お前は」
「……どうなってるんだ?」
確かに俺は鉄骨の直撃を喰らい、右腕と脇腹を失い確実に死が待っている筈だったのだ。
「……ま、願いの力ってとこかね」
「……?」
「せぇぃくん……もう死んじゃうと思ったよぉぉ……ふぇぇ……」
俺の右腕にしがみつき、泣きじゃくる彩華。
「腕も……ある。そうか……」
俺はやっと状況を理解し、そして心の中で呟いた。
(……ありがとうな、桜芽)
『べ、別に礼を言われるようなことではない……せいが死んではわっちも消えてしまうからな。それにせいの願いが強かったから助かったのじゃから』
「そ、か……」
周りには聞こえないように呟き、そして窓の外を見た。
そこからは春の暖かい陽光が、未だ泣きじゃくる彩華の頭に優しく差し込んできていた。
「二人とも……ありがとうな」
恐らく俺が目を覚ますまでついていてくれたのだろう。本人は気づいていないだろうが、羽流の眼は赤く充血していた。
「ふん……」
「……うんっ」






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