創世工房Low-Rewrite

キーンコーンカーンコーンーーーー
「……初日から疲れたぜ……」
俺の机で突っ伏す羽流。隣でも彩華が疲労困憊の色を見せていた。
「まぁこのスケジュールは鬼畜だな……」
始業式二時間の後、オール座学四時間……その全てが理数系と来たものだ、体育系の羽流に脳内お花畑の彩華には辛いスケジュールだろう。因みに俺の得意教科は理数系だ。それでもこれは辛い……
「しかも物理で指名されるし……ついてねぇ」はぁ……と溜め息を付いて顔を上げる。
「羽流物理苦手だもんねー……同情するよ」帰りの支度を終えた彩華が、立ち上がって机の横に来る。
「数学で指名されてあたふたしていた彩華に同情されるとは……俺も堕ちたな……」
「ちょ、それどういう意味よーっ」
両腕を上に上げ怒ったぞのポーズ。彩華よ、お前がやっても可愛いだけだぞ。
「兎に角、二人ともお疲れさま……これからどうするよ」
折角久しぶりに三人が揃ったのだ、普通に帰るだけじゃつまらない。
「俺は暇だが……」こちらも支度を終え、立ち上がった羽流。
「私もーーあっ、そうだっ」
「なんかいい案でも思い付いたか?」
彩華は少し溜めたあと……
「咲かない桜を見に行こうよ!」
「……ふっ」「……ははっ」羽流と顔を見合せ、そして、
「「そう言うと思っていたぜ」」
見事にハモった。流石、長年付き合ってきただけのことはあるなーと変なところで感動を覚える。
「な、なんですとーっ」本気で驚きの顔を見せる。
「彩華の考えなんてお見通しってな」「うむ」というかこいつは気になったことは確かめなきゃ気がすまないやつだ。朝、話を聞いた時点でこうなることは予想済み。
「むー……」頬を膨らませる彩華。だから可愛いだけだって。
「まぁ、兎に角行ってみるか……そろそろ新芽が出る時期だし」
「そうだな、俺も異論はない」ところでなんで羽流はこう、堅苦しいような話し方をするのだろうか……これだけ付き合ってきたのだ、もっと砕けてもいい気はする。
「よし、じゃあレッツゴー!」
俺も荷物を纏め、三人で学校を出た。

「相変わらず凄い桜の量だな……まだ新芽しか出てないが」周りを見渡し呟く羽流。
「だなー……それにしてもまだ着かないのか」
桜の量も目を見張るものがあるが、この丘の広さも相当だ。丘の頂上まで登ろうものならちょっとした登山のようなものだ。
「もうすぐの筈だよー……ほら、あれっ」
彩華が指を指したその先。開けた空間の中に一本だけポツンと立つ桜の木があった。
「……新芽、出てないな」「うむ」
「えー、そんな筈は……出てないね……」話では新芽は出ている筈だったが、目の前の桜は悲しいだけであった。
「やっぱり枯れてるんじゃないか?」新芽すら出てないのだから。
「むー……たまたま遅れてるだけだよ、絶対!」
「どうだかな」羽流も枯れていると考えているようだ。
「よし、じゃあまた来てみようよっ、そしたらきっと新芽が出てるよっ」あくまで信じている彩華……まぁ、彩華らしいが。
「わかったよ……またここまで来るのか……」いくら学校の直ぐ裏でも、頂上までは10分ほど登り続けなくてはならなかった。
「まぁ、春休みに鈍った体を動かすのにはいいだろうからな、付き合ってやる」ぶっきらぼうに言う羽流。全く素直じゃないな。
「よし、じゃあまた明日放課後ねっ」そう言うと彩華は、丘を駆け降りていってしまった。
「……もう、大丈夫なんだよな」「……あのことはもう忘れろ、今のあいつが大切だ」
そして二人で丘を降りていった。

「……やはり覚えておらんようじゃな……」桜の上に落ちる影一つ。それは不敵に笑うと、一瞬にして消えたーー






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