創世工房Low-Rewrite

「ていっ」
「喰らうかッ」
振り下ろされたチョップをギリギリで白羽取り。ふっ……我ながら見事だぜーー
「ていやっ!」
「ぐはっ……」右の脇腹に衝撃が走る。
俺は重大なことを忘れていた……そう、彩華が両利きだってことをーー
白羽取りによって空いた脇腹を、左手から繰り出された正拳突きが捉えた。
「ふふっ、まだまだ甘いねっ」胸を反らして勝ち誇ったようにブイサイン。
「くっ……」何も言い返せない。
「せい君が毎朝ちゃんと起きれば良いんだよー……あ、でも」
「ん……?」
「いや……せい君がちゃんと起きちゃったらこれもお仕舞いになっちゃうねーって思ってさ……」
この習慣は、小学生から続いているものだった。それが無くなると思うと……寂しいものがあるな。
「大丈夫だ、俺が朝に極端に弱いのは彩華が一番知っているだろ」もしかしたら俺のことを一番知っているのは彩華かも……と時々思うことがある。俺の好みやら何やら、全てを知られている気がする。
「もー……全く……」
「ん?」
「な、なんでもないよっ、ほら、早く着替えてっ」何故か慌てる彩華。全く、俺には全然わからんな。
「はいはい……」

「おはよう」
「せいか、御早う」
学校に着き、教室に入って羽流と挨拶を交わし、席に着く。
「今日も桜、観に行くから放課後開けといてよー」数秒遅れて、彩華が隣の席に座る。
「「既に予約済みだ」」流石過ぎるぜ、羽流……
「なんですとー!?」これが彩華の口癖だ。
「「勿論、桜を観るという予約がな」」
「あ、成る程っ」納得したように手を叩いた。
「だがその前に……」羽流がこっちを見る。分かってるぜ……
「「座学六時間地獄だ」」
「なんですとー!」うん、今日も通常運行だ。

「流石に堪えたぜ……」前の席で崩れている羽流。そして隣では、
「うにゃあ……」完全に灰になっていた。
「おいおい、そんなライフで大丈夫か?」
「「大丈夫だ、問題ない」」
気持ちいい返事が返ってきた。
「じゃあ……桜を確かめに行くか」学校を出て、裏の丘に向かう。そして丘を登り出して約10分後。
「なぁ……こんなに長かったかこの道……」「せいくーん……休もうよぉ……」何だか、周りがうるさいが放置。確かに座学六時間の後には堪えるが……今休むと歩く気力が無くなってしまう……元よりそんなものは無かったが。
「あと少しだろ、我慢しろって……ほら、見えてきーー」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」桜が観えた瞬間に走り出す羽流。ついに壊れたか……
「ちょ、ちょっと待ってよっ」それを追いかけていく彩華。
「お前ら……全然気力残ってるじゃねーか……」対する俺に、一気に脱力感が襲ってくる。
「……やっぱり出てないな」「むー……」追い付いた頃、二人は少し残念そうな顔をしていた。
「やっぱり枯れてるんだろ……」他の桜は、少しずつ蕾が芽吹き始めていた。
「仕方ないかぁ……」落胆する彩華。
「まぁ、こういうこともあるさ」
「何だかなぁ……まぁいっか」諦めがついたようだ。切り替えが速いのは彩華の長所ではあるが……
「そういえば知ってる?最近町でねー……」再び新しい話題を話始める彩華。切り替えが速いが故に、俺たちは何時も振り回されることになる。羽流と顔を見合せ、そしてーー
「「じゃあ、確かめるか」」
明日もまた、彩華の知識欲を満たすことに付き合うことになりそうだ……

「……仕方ないのぅ……」
桜の上に再び落ちた影は、その桜の影に溶けていったーー






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