創世工房Low-Rewrite

「んんっ……良く寝た……」カーテンを開け、伸びをする。誰にも邪魔されず、ゆっくり眠れるというのは素晴らしいな……ってあれ、何かがおかしいぞ……
「あれ、彩華は……」
朝は彩華が起こしに来る筈……考えていると、ふと時計に目が移る。短い針は南西を、長い針は北を指していた。
「やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」因みに家から学校までは歩いて30分……彩華のことを考えている余裕は無かった。顔を洗うことも忘れ、全力で家を飛び出したーーーー

「ーーーーはぁ……はぁ……間に、あった……」教室に着いた瞬間に、鐘がなる。
「珍しいな、せいがこんな時間とは……ぬ、彩華はどうした?」
「あれ、来てないのか……風邪か?」教室にも、彩華の姿は無かった。風邪でもひいたのだろうか……
「はーい、席に座ってー!」担任教師の一声で生徒が席に着く。そして出席がとられる。
「桜さん……あれ、桜さんは?」彩華が呼ばれるが無論返事はない。不思議そうにしている先生。
「何も連絡されてないんですか?」「連絡は……来てないわね……響さんは?」因みに俺達と彩華が何時も一緒に行動していることから『響組』というあまり有り難くない呼び方をされることがある。
「いえ、俺も連絡は……」
「そう、何かあったのかしら……」彩華は学校をサボるような奴ではないことは先生も知っている。それもあるからか、心配の色が色濃く顔に浮かんでいる。
「放課後、俺達が家に行こう……何、彩華の事だ、心配することはなかろう」先生相手でもこの口調の羽流。でもこいつが自分から進んで行動するとは珍しいな……まぁ、彩華のこととなれば当たり前か。
「そう?ならお願いしていいかしら」
「承った……」ところで俺も勝手に巻き込まれた件について。まぁ行くからいいけどさ。

「……彩華が居ないと寂しいな」彩華はクラスのムードメイカー的な存在だった。何時も周りを楽しくさせてくれる。
「……ほらせい、さっさと行くぞ」
「ああ」放課後、結局彩華からは何の連絡もなかった……だったら確かめに行くしかないな。
彩華の家は駄菓子屋を営んでいて、子供達や会社帰りのサラリーマンにも愛される店だ。だが最近はもっぱら俺の家や羽流の家に行くことが多く、彩華の家に行くのは久しぶりだった。
「……懐かしいな」
彩華の家……3年ぶりだろうか?中学になってからというもの、男子が女子の家に行くのは変な噂に成りかねない為来ることを躊躇っていた。
「こんにちわー……ってあれ、誰も居ないのか?」店の中には誰も居らず、あるのは懐かしの駄菓子のみだった。
「奥も見てみるしかないな」
「お邪魔しまーす……」返事はない。
「彩華ー居るんだろー?」やはり虚しく響くだけで。
「上か……?」
「それにしたって返事ぐらいあるだろ……まぁ確認するか」
二階。彩華の部屋の戸を開けたーー
「ーーっ彩華!?」羽流が駆け寄る。そこに倒れる一人の少女……その上には『1』という数字が浮かんでいる。
「なっ……嘘だろ……」昨日までは死期なんて浮かんでいなかった筈。それがどうして……?
「くっ……話は後だ、せい!救急車をーー」無駄だ……死期は絶対。助かる術は……ない。
「チィッ……」携帯を俺から奪い取り、救急車を呼ぶ。
「もしもし、兎に角来い!友人が倒れてーー」叫ぶ羽流。動かない彩華。

ーー咲かない桜ーー

ーーそうだ、咲かない桜だ。
「お、おいっ、せい!」気がつくと俺は走り出していた。ただひたすら。

ーーはぁ……はぁ……
もはや声にならない疲労の声をあげながらも辿り着いたその場所。目の前には聳え立つ『それ』は新芽を芽吹かせていた。
「頼む……彩華を救ってくれっ……俺が捧げる大切なものはっ……」
その瞬間、時が止まったかのように静まり返りーー

「俺の……人生だっ」

ーーよろしい……主との契約……契ろうぞーー

声が響き渡った、その刹那。俺は唇に柔らかい感触を感じ……そして意識は響く声の中に消え去った。







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