創世工房Low-Rewrite

「ていっ!」
「ぐあっ……」
脳に衝撃が走る。それと同時に駆け抜ける安堵と違和感。
「んー?どうしたのせい君、ポカーンとしちゃってさ」首をかしげて不思議そうにしている彩華。
そう、目の前には今日で死ぬ筈だった彩華が立っていた。何時ものように俺を起こすために。
「彩華……良かった……」でも違和感の正体が掴めなかった。なんだろう……
「……?なんだか良くわからないけど私は今日も元気一杯だよっ」確かにそのようだ。……って今日も?この言い方はおかしい。何故なら彩華は昨日、元気一杯とは言い難い……というか言えない状況だった筈なのだから。
「……まぁいいか、あれはきっと俺の夢か何かだったんだ」うんうん、と勝手に納得する……その時。
『夢なんかではないぞ……また忘れてしまおうとするのかのう?』頭に直接響く声。
「なっ……」
「せい君どうしたの?」突然の俺の反応に疑問を浮かべる。どうやら彩華にはこの声が聞こえて居ないようだ。
『そっちの娘には聞こえとらんよ……わっちは御主に直接語りかけとるのだから』俺の心を読んだかのように声が響く。この声、何処かで……?
『全く……契約したじゃろう?御主の人生と引き換えにそっちの御嬢さんを助けると』俺は疲れているのか?
『どっちかと言うと憑かれているほうじゃな』うん、突っ込みまでしてくるとは相当だ……精神科行った方がいいかな……
『……あのなぁ、御主は至って正常じゃぞ?いい加減わっちの存在を認めんか』どういうことだ?
『はぁ……わっちは主が昨日願いを捧げた桜に憑依せし死期の悪魔……主がわっちに、人生を捧げると言ったから憑依させてもらった』つまり、どういうことなんだ……?
「ああ、もう……考えるのは後だ、彩華行くぞ!」何だか良くわからないが兎に角学校に行こう、うん。
「ふぇっ!?……う、うんっ」いきなり動いた俺に驚きながらも返事を返す。
『はぁ……』溜め息が聞こえた気がするが、今は気にしないでおこう。

「よう、せいに彩華」教室に入ると何時も通りの羽流が居た。そう、何時も通りの。
「おはよう羽流」「おっはよーうっ」やはり特に変わったところは無く普通通りだった。だが今はそれが不安材料である。
「(昨日のことが夢じゃないとしたらこれはどういうことなんだ……?)」とりあえず席に着く。昨日の状況を、羽流も知っている筈。だがその羽流は彩華が居ることに何の違和感も示さず、寧ろ普段通りであった。
『さて、そろそろわっちと話をする気にはなったかのう』再び響く声。
「(ああ……これで聞こえるんだよな?)」二人に分からないよう、口に出さずに考えるだけ。
『うむ……さて、何から聞きたい』
「(今の状況を分かりやすく説明してくれ)」俺が知りたいこと、それは結局何が起こっているのかだ。
『そうじゃな……御主の願いによってあの娘の死期が延長され、それによって昨日の事実は無かったことになり、
御主以外の記憶から消え去って普段通りの記憶になったのじゃろう……他は?』成る程、とりあえず納得しよう……じゃあ聞くことはあと一つだ。
「(お前は……何なんだ?)」
『わっちは……あの桜の樹に憑依する、死期の概念から生まれた悪魔』そう声が聞こえたと同時に、目の前に一人の少女が虚空から現れた。
「なっ……んぐ!?」驚きの声をあげ、それを少女に封殺される。
「ぬ……?どうした、せい」羽流が疑問符を浮かべる。成る程、なんとかわかってきたぞ……
目の前には、一人の幼い少女が立っていた。髪は黒のロング、服装は着物のようなものだが、俺が知っている着物とは違い、腹周りがさらけだされている。そして頭には黒い蝙蝠の翼のようなものが付いていて、背中には黒いオーラを纏うまるで悪魔のような翼が生えていた。
『ような……ではない、わっちは正真正銘の悪魔じゃ』訂正された。
「(……成る程、夢じゃないのはよく分かったよ……なら何で俺は生きているんだ?)」昨日、俺が捧げたのは人生そのもの。我ながら馬鹿だと今更悔やむが、今はどうでもいい。
『ちゃんと人生なら貰ったぞ?……お主に憑依するという形でな』和装幼悪魔は笑う。
……どうやら、俺はラノベの主人公か何かになってしまったようだった。






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