創世工房Low-Rewrite

『楽しいのう……この世界は』頭に直接声が響く。
今、幼悪魔は再び姿を消し、俺に憑依している状態になっているのだ。
「(これくらい普通だろ……というか授業の何処が楽しいんだ)」因みに今は地理の授業中である。教師が黒板に書いた文字をノートに書き移すだけの単純作業……面白みなんて何処にも見当たらない。
『わっちは憑依しているものの周りでしか動けないのじゃ……じゃから主らからしたら普通のことがわっちには珍しいのじゃ』成る程、今までは桜の樹に憑依していたからその周りのことしか見ることも知ることも出来なかったのか。
「(じゃあなんで桜なんかに憑依したんだよ……もっと別のものがあっただろ)」そうなると浮かぶ素朴な疑問。
『全く何も覚えておらんのじゃな……お主は』
「(どういうことだーー)」
「では響さん、この文を読み上げてください」「は、はい」突然の指名により俺の疑問は流されることになった。

「……はぁ」
「どうしたのせい君、溜め息なんてついて」「何かあったなら話せ……相談ぐらいは聞こう」下校中、二人に心配されてしまった。ありがとう……だがお前らに相談しても仕方がないことだ。
「いや、気にするな……疲れただけだ」「それにしても今日はそんなに大変な授業はなかった筈だぞ?」さすが我が親友……鋭いな。
「お前らにも相談出来ないことなんだ……すまない」誰が悪魔にとり憑かれたなんて言って信じるのか。
「主よ……自分から憑かせといてそれは酷いぞ、わっちはちゃんと願いを聞き入れたというのに」俺の上から声が聞こえる。幼悪魔は現在、俺の外に出て、真上1メートル程のところをふわふわしていた。
「(どうせお前の姿は俺以外には見えないんだろ……それが悩みの種なんだよ)」見えないのだから相談しようがない。それにこれでは気を削がれてまともに二人と会話してもいられない。それになんだか落ち着かない。
「見えないことはないが……わっちと何らかの関係をもったもの……そこの娘は見えとる筈じゃぞ」彩華の方を見る。
「ふふーん……」鼻唄を歌いながら顔を逸らされた。怪しい……一方の羽流は至って普通。
「ところでせい、さっきからお前の上の方から気配を感じるのだが……何かに憑かれてるんじゃないか?」普通じゃなかった。忘れてた、こいつの親は住職だった……
「ほう……人間ごときがわっちの気配を察するか小僧」妖しい笑いを見せながら言う幼悪魔。
「せい、なんか今侮辱を受けた気がするんだが?」気配だけでそこまで感じとれるとは……凄いな、おい。
「気のせいだ」
「ふん……」それ以上は何も言わない羽流。なんかこいつ……注意しなきゃな。
「じゃあ、また明日」
そのうちに羽流と別れて、俺と彩華の二人きり……ではなく幼悪魔含めて三人になった。
「ねぇせい君……」彩華が口を開く。
「その……上でふわふわしてるその娘は……?」やはり見えていたようだ。
「ああ、こいつはーー」
「わっちはただのこいつに憑依している悪魔じゃ、それ以外の何者でもない」俺の言葉を遮る幼悪魔。
「え、悪魔!?せ、せい君に憑依!?どどどどういうこと……」……これはめんどくさいな。そう考えた俺がとる行動はただひとつ。
「い、彩華!また明日な!」「え、ちょ、せいくーー」パニックになっている彩華を置いて家に向かって走り出した。
幸い、家までは直ぐで疲れることは無かった。
「ふぅ……」家の扉を閉め、一息。
「何故逃げたのじゃ、別に逃げる必要はーー」「気になられるとめんどくさいから」あいつの好奇心は常人のそれを遥かに逸している。一度興味を持ってしまったらある程度区切りがつくまで調べ続けるのだ。そのお陰で俺も羽流も振り回され続けている。
「成る程な……まぁよい、わっちはこの世界をもっと見たいだけじゃからな」俺の心を読めるこの幼悪魔には長い説明など不要だった。
「ところで……悪魔、お前の名前を聞くのを忘れていた」それを普通最初に聞くところだろ俺。何時までも悪魔と呼ぶ訳にもいくまい。
「名前……とな」すると幼悪魔は何やら考えだし、
「名前……そんなものないわ」
「……え」
「だから名前などないと言っておる!なんだ、何か文句があるか?」名前がない……成る程、そもそも名前なんて必要なかったもんな。
「勝手に納得するでない全く……」頬を膨らませる幼悪魔……こうしてみるとなかなか可愛いのにな。
「か、可愛いじゃと……何を……」心を読まれるってのは大変だな、うん。
「まぁ兎に角、名前がないと俺が不便だ、何時までも悪魔なんてのはな」
「ふむ……そうだ、お主が考えてくれ」俺が?……まぁ構わないが。
「そうだな……桜の樹に憑依してたから……うーん」単純に桜では彩華と被ってしまうしなぁ。桜の悪魔……魔桜……
「なんか今失礼な名前を考えただろう、お主」チョップされる。今気づいたが触れるんだな、こいつって。
「ちゃんと考えてるって……そうだ」脳に閃光が走った。
「悪魔、お前の名前は……!」新芽が芽吹いた時に願いを叶える桜の悪魔……
「桜芽(おうか)だ!」捻りなんてない、シンプルイズベストだ。
「ふむ……桜芽……桜芽……」悪魔は何度もその名前を繰り返した後。
「……悪くないのう」気に入ってくれたようだった。
「では主……桜芽じゃ、これからよろしく頼むぞ」
「まぁ彩華を助けてくれた訳だからな……よろしく」






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