創世工房Low-Rewrite

「あっ、響くん!」
保健室を出て、教室に行くと、悪役の演劇部員が声をかけてきた。
「もう……大丈夫なのかい? 無理はいけないよ?」
「はは、すまんな。 もう大丈夫だ……さぁ、作業を始めるぞ!」
「「おお!」」
教室中がひとつになる。担当以外の人も一丸となって作業をしていた。
『結果的には良かったが……二度とあんな真似はするなよ、せい』
心配の色を含ませた声が脳に響く。
(すまないな……心配かけたよ)
『し、心配などしとらん……まぁ、そのなんだ……せいが死んでしまってはわっちがな……』
それっきり声は聞こえなくなった。
「……さて、俺も始めるか!」
全員で力を合わせなくては間に合わない……ここが正念場であった。

「ふぅ……皆もう遅いし、また明日にして今日は帰るぞ」
窓の外を見ると、すっかり日は沈み、教室の時計の針は西と北を指していた。
「もうこんな時間かぁ……んんっ」
作業をしていた彩華が立ち上がり、伸びをする。
「本当は泊まりがけでもいいのだが……流石にそれはまずいからな」
同じく作業をしていた羽流が、鋸を床に置いて言う。
「そりゃあな……ほら、今日はちゃんと休んで明日頑張ろうぜ」
「うん」
「おう」
やっぱりこの二人は息が合う気がするんだ。
「よし、お前らも終了!明日が最後だからな?ゆっくり休めよ」
教室で作業をしている人達に呼び掛ける。
「はい!」
「おう!」
「よし、じゃあ解散!」
それを合図に、準備を終えた人から次々と教室を出ていく。俺も準備を終え、彩華と羽流と共に帰路についた。
「なんだかこのメンバーで帰るのも久しぶりな気がするな」
この前一緒に帰ったのは……何時だったっけ。
「まぁ、色々あったからねー……主にせい君に」
「うむ」
二人が同時に頷く。
「いやはや、返す言葉が無いよ」
本当に色んなことがあった。
突然彩華が倒れ、桜芽との契約。死期の悪霧に鉄骨落下……
「……あまり、まともなことはなかったがな」
思わず苦笑が漏れる。
「全くだ……少しは心配するこっちの身にもなれ」
「心配はしてくれてたんだな」
「ふん……」
ぶっきらぼうだけど、結構いいやつなんだよな、こいつ。まぁだから一緒にいるんだけど。
「ま、皆無事なんだからよかったよね」
「だな……全く、不幸なんだか幸せなんだかわからんよ」
確かに散々ではあったが、悪いとは思わなかった。それなりに充実感はある。
「後は……演劇を成功させるのみ!」
「ふっ……任せとけ」
「緊張するなぁ……」
心強いのと、少し心配な返事……強い安堵感を覚える。
(この日常を守るためにも……必ず……!)
『ふっ……期待しておるぞ』
夜の闇に浮かぶ十六夜の月は、温かくこの町を照らしていた――






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