創世工房Low-Rewrite

桜祭前日の午後八時を過ぎた頃。皆の顔にも疲労の色が濃く浮かんでいた。
「さて……これは終わりだな、次!」
「えと……」
彩華が残りの作業の確認をしにいく。完成済みの道具と、手元の予定表を見比べている。
「せい君! もう終わりだよ!」
先程まで浮かんでいた、疲労の色は消え、寧ろ明るい表情を見せた。
「その言葉は何かが間違っているぞ、彩華」
もう終わりだよ! なんて言葉はどちらかという絶望的な状況で使う気がする。
「え……あ、そうか」
彩華は納得したのか、手を重ねて再び口を開き、
「これで全部完成だよ!」
眼を輝かせている。
「「おお!」」
クラス中の声が重なる。どうやら俺が行っていた作業待ちだったらしい。
「一時はどうなるかと思ったが……いやはや、間に合ってよかったぜ」
「まだ気を抜くのは早いぞ、せい……明日の本番を成功させるまではな」
そう言った羽流も、顔には安堵の色が浮かんでいた。
「まっ、それもそうだな。よし、皆……明日は遂に本番だ! 絶対に成功させるぞ!」
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
教室を揺るがす程の声が響く。少し熱いな、これ。
「それでは解散!ちゃんと睡眠を取れよ」
俺がそう言ったのを合図に、次々と教室を出ていく生徒達。
「明日頑張ってね! 彩華ちゃん!」
女子生徒が、彩華の横を通りすぎながら声を掛けていく。
「う、うん……そう、頑張らなきゃ……」
彩華の親友であり、想い人の方へ目を向ける。恥ずかしいが、やるしかない。
「……ん?」
視線を感じて、彩華の方へ顔を向ける。
「な、なんでもないよっ」
目を逸らされてしまった。
「そ、そうか」
少し気になったが、そこまで追求することでは無いだろう。
「さて……じゃあ帰るか」
明日は……本番。そしてこの町の運命が決まる最終日でもあった。
「……大丈夫だ、せい」
羽流が肩に手を載せる。
「絶対に成功させるさ」
「……ありがとう」
何故だか、羽流に言われると心配の感情は薄くなっていった。
「そうだよ! 私も……その、頑張るから!」
そう言うと、彩華は一人で駆けていってしまった。
「……なんなんだ?」
「……わからん」
彩華の謎の行動に呆気に取られる。あれだろうか、彩華も緊張しているということなのだろうか。
「まっ……帰るか」
「うむ」
荷物を纏め、二人で帰路についた。

――はぁ……はぁ……
「やっぱり……恥ずかしいなぁ」
明日皆の前で……か。
「確かに一度は……うぅー……」
演劇の内容を考えると顔が火照る。
「でも……」
私も頑張らないと。せい君はあんなに頑張っているんだ――






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