創世工房Low-Rewrite

「これは……凄いな」
桜祭の会場に設置されたステージ。決して少なくない観客席は、その全てが埋まり、通路に立って観ている人も多く見られた。前のグループが発表をしている裏で、俺達は静かに順番を待っていた。
「うぅ……緊張するよぉ」
震えた声の彩華。その姿は、衣装班が作った純白のドレスに包まれており、周りの視線を一挙に引き受けていた。
「大丈夫。絶対に成功させる」
そんな彩華の肩に手を当て、励ます羽流。
「そうだな……そう緊張するな、似合ってるぞ」
思ったことをそのまま言った。実際、今の彩華は形容出来ない程の美しさを誇っている。
「……! そ、そうかな……」
三つ編みを触り出す彩華。そういえば、この癖も久しぶりに見たな……
「うん、似合ってる」
「あ、ありがとっ」
そう言うとそっぽを向いてしまった。
「全く、せいは……らしいがな」
「ん、なんだ?」
「いや、気にするな。独り言だ」
なんだというのだ。時折、はっきり言わないのは羽流の悪い癖だと思う。
「……まぁ、いいか」
――の皆さんありがとうございました――続きましては――
ステージから発表終了のアナウンスが聞こえてくる。巻き起こる拍手の渦。
「……よし、お前ら! いくぞ!」
クラスメイトの方を向き、叫ぶ。
「「おお!」」

「――これが……我の末路か、兵士よ……」
崩れ落ちる悪役。照明が全て落とされる。
――ガッ……ガチャ……ガチャンッ――
観客がざわめくなか、錠を開ける音が暗闇に響く。
「……姫!」
声と同時に照明が兵士と姫を照らした。
「あなたは……城に居た……?」
戸惑いを含む声。観客席が一気に静寂につつまれる。
「はい、姫を御守りしていた兵士です。あの時……御守りすることが出来なかったこと……不覚です」
「……魔王は貴方が……?」
「はい、これでもう姫は――」
大丈夫。そう言おうとした口が柔らかい……これは――
「……ふふ、これは御礼……そして」
思考が止まる。台本にはこんな台詞は……
「私の……気持ちです。今までずっと私を守り続けてくれて……ありがとう」
それは、太陽よりも眩しく、月よりも美しい笑顔だった。演技ではなく、本当の笑顔。そして本当の気持ち。
観客席から歓声があがる。
「(ほらっ……せい君続けて!)」
「あ、あぁ……」
先程の笑顔が頭を離れないが、これは演劇だと自分を言い聞かせる。
「では、帰りましょう……私達の町へ!」
二人で、フェードアウト。そして演劇は終わりを告げた――






←前の章   戻る   次の章→