創世工房Low-Rewrite

「の、のぼせた……」なんとか風呂をクリアすることが出来た俺だったが、
「主よ……わっちは腹が空いた、食事はまだかのう」この悪魔め、俺を過労死させるつもりじゃないだろうな……
「主が死んでしまってはわっちも死んでしまうであろう……ほれ、準備せい」因みに、桜芽には昔彩華が忘れていったパジャマを着てもらった。若干合ってなくて袖が余っているが。
「はいはい、今準備するって」そう言って台所へ向かい、冷蔵庫を覗く。うーむ……これでは野菜炒めぐらいしか作れないな。
「とりあえず、野菜切るか……」隣では桜芽が目を輝かせて野菜を見つめている。包丁を取りだし、野菜を細かく刻んでいく。
「ぬ……わ、わっちも見たいのじゃ……」ふと隣を見ると、桜芽が背伸びしてシンクの上に顔を出していた。因みにシンクと桜芽の高さは殆ど同じである。
「……お前はアホか」その頭を軽く叩く。
「いたっ……な、なにをするのだっ」両腕をぶんぶんと振り回し怒る桜芽。この怒りかた、現実にあるんだなー、と変なところに関心が行きつつも、
「お前、羽あるんだから飛べばいいだろ」「はっ……」思い出したように背中に羽を顕現させると、俺と同じ高さにまで浮遊する。
「べ、別に忘れていた訳ではないぞ!断じて忘れてなどっ……」顔を紅潮させて、否定する。
「忘れてただろ」
「うーっ……」そっぽを向かれてしまった。そんなことは気にせず、野菜を刻んでいく。
「よしと……」刻んだ野菜を炒めて、皿に盛り付ける。鮭を焼いてご飯を盛って完成。
「うわぁ……!」そして歓声。
「さて、食べるか」「そうじゃな!」隣で待ちきれずに箸を持つ桜芽。てか箸は使えるのか。
「わっちだって箸ぐらい使えるに決まっておろう!」心を読まれた。
「お、おう……」心を読まれない方法なんて……ないよな。
「じゃあ……いただきます」「いただきます!」言うが速く、桜芽は野菜炒めを口に入れる。
「……!」その瞬間、皿に盛り付けられた野菜炒めが消失した。比喩ではない、本当に消えたのだ。
「なっ……」「主よ、野菜炒めとやらは美味だな!」どうやら桜芽が一瞬にして食べてしまったらしい……恐るべし悪魔。だけどこれくらいでこんなに喜んでくれるなら悪くないななんて。
「この鮭とやらは……ん!」そしてやはり鮭も瞬時に桜芽の皿から消える。
「……」何故か涙目。
「ど、どうした?」もしかして口に合わなかったのだろうか……それとも生焼けだったか……?
「なんだこれは……美味過ぎる……」どうやら感動の涙だったようだ。
「そんなに美味しかったか?……なら俺のも食えよ」自分の鮭を桜芽の皿に置く。
「い、いいのか!?」
「いいから食えって」
「か、感謝するっ」これぐらいで感謝されるとは。こんどはゆっくり、少しずつ口に入れていく。頭の羽がピョコピョコと動いている。そんな桜芽を見ながら、俺は白米だけを食べたのであった。

「ふぅ、食器も洗ったしそろそろ寝るか……」少し早いが今日は疲れた。隣では桜芽があくびをしている。
「わっちも眠い……床に入ろうぞ……」「そうだな……」ところで今思ったのだが、やはり一緒に寝なければならないのだろうか。
「当たり前じゃろう」ですよねー。
「なぁ……もうちょっと離れられないか」「これ以上離れてはわっちが落ちてしまうであろう……」そして今の状況。結局二人でベットに入っていた。背中合わせの体勢で、桜芽のことは見えないが、それでも体温が伝わり何とも落ち着かない。
「はぁ……」仕方がないのだ、契約なのだから。
「諦めよ……寧ろわっちのような美女と寝れるのだぞ?光栄に思え」美女というよりは美幼女ーー
「いたっ……」蹴られた。
「全く……ほれ、さっさと寝るぞ」「ああ……」諦めたら何だか睡魔がどっと押し寄せてきたーーーー

「……寝たかのう」返事の代わりに聞こえるのは寝息のみ。
「この安らぎ……なんなのじゃろうな」誰に言っているでもなく、ただの独り言。
「……人の温もりというのも悪くないのう」体勢を変え、眠っている彼の胴に腕をまわす。
「お休み……せい……そしてーー」気がつけば二人の寝息のみが部屋には響いているのであった。






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