創世工房Low-Rewrite
「僕らは一人一人が各々『世界』を持っている。それは君の世界では『心』と呼ばれているものだ」
私は喋っていないのにプレはまるで私の言いたいことを知っているように。
「ご覧よ」
言葉を、紡ぐ。
プレは小さな賽の目をどこからか取り出すと、ゆっくりとテーブルに置いた。
赤々と、燃えるように。自ら光り輝く立方体は、人差し指と親指で簡単に握り潰せてしまいそうなほど小さい。
これは一体――「綺麗だろ? これはね。僕の『世界』だよ」
またしても私が口にするより先に、プレは私の思い読み取ったようだ。……偶然かもしれないが、タイミングが良すぎる。もしかしたらプレは――
「その通りだよユウコ。僕は君の思っていることが分かるんだ」
プレは賽の目をつまみ上げると、正方形の満月に翳すように、ゆっくりと頭上まで持っていく。
仄かに明るい屋内で、それは煌々と輝いた。
「僕らは一人一人、自分の『世界』を――『心』を具現化できる。『心』はキラキラ輝いて、宝石よりも美しい。
一人一人の『世界』がそこにはある訳だから、『心』は二つとして同じ色がないし、輝きがないんだよ。この世でたった一つの……自分だけの『世界(いろ)』なんだよ」
……十人十色という言葉はこのことを言っているのだろうか。自分の『世界』を見つめるプレは私の『心』をも魅了しそうで――
「でもね、ユウコ。具現化した『世界』はあまりにも脆いんだよ」プレはゆっくりと腕を降ろすと、私に向き直った。「見ることはできる。他人の『世界』が感じたことが何なのかは、見れば自分の『世界』に響くから。
でもね、『心』が見えたとしても……。分かったとしても、良いことなんて何もなかったんだ。
ユウコ、本音が見えすぎるのはこの世で一番攻撃的なことなんだよ。どんな冗談も、お世辞も、本音の前ではなんの意味も持たない。
寧ろ相手からの自分への気持ちはマイナスに走り、それを知った自分は相手からを……。
負のスパイラルから抜け出すために、僕らは『外の世界』へ出たんだ。『心』を覆うことができる世界へ」
それまでの笑顔とは違う、悲しい笑い方は。彼の言う通り、私の『世界』に響かせるものがあった。
先程感じた心の奥底に響く彼の声は、今と同様、私の『世界』に響いた彼の本音だったのかもしれない。なんて。なんて……。
「儚い世界。だろう? 君が言いたいことは」
こくん。三度目の頷きは、先程までより浅い。しかし本音は。今のが一番――
「僕らの『世界』は物心がつく頃には具現化出来るようになっている。具現化のきっかけは既に具現化された『世界』を見ること。親兄弟が必ず一回は『世界』を見せてくるんだ。自分でもできるかどうか試したくなるだろう?
でも、多くの人達が、他人の『世界』に追い詰められて……誤って自分の『世界』を握りつぶしてしまうんだ。そうすると、その人の『世界』は崩壊して、精神病院に永住することになるんだ。
――ユウコがさっきまで僕の本音を感じ取れなかったのは、僕が意図的に『世界』を見せなかったからだよ。君が誤って『世界』を握り潰したら大変だからね。
……一度具現化させてしまうと、その気になれば誰の心でも読めるし、意識せずに他人の『世界』が自分の『世界』に響くようにもなる。今日、君の声を聞いた時の様に」
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私は喋っていないのにプレはまるで私の言いたいことを知っているように。
「ご覧よ」
言葉を、紡ぐ。
プレは小さな賽の目をどこからか取り出すと、ゆっくりとテーブルに置いた。
赤々と、燃えるように。自ら光り輝く立方体は、人差し指と親指で簡単に握り潰せてしまいそうなほど小さい。
これは一体――「綺麗だろ? これはね。僕の『世界』だよ」
またしても私が口にするより先に、プレは私の思い読み取ったようだ。……偶然かもしれないが、タイミングが良すぎる。もしかしたらプレは――
「その通りだよユウコ。僕は君の思っていることが分かるんだ」
プレは賽の目をつまみ上げると、正方形の満月に翳すように、ゆっくりと頭上まで持っていく。
仄かに明るい屋内で、それは煌々と輝いた。
「僕らは一人一人、自分の『世界』を――『心』を具現化できる。『心』はキラキラ輝いて、宝石よりも美しい。
一人一人の『世界』がそこにはある訳だから、『心』は二つとして同じ色がないし、輝きがないんだよ。この世でたった一つの……自分だけの『世界(いろ)』なんだよ」
……十人十色という言葉はこのことを言っているのだろうか。自分の『世界』を見つめるプレは私の『心』をも魅了しそうで――
「でもね、ユウコ。具現化した『世界』はあまりにも脆いんだよ」プレはゆっくりと腕を降ろすと、私に向き直った。「見ることはできる。他人の『世界』が感じたことが何なのかは、見れば自分の『世界』に響くから。
でもね、『心』が見えたとしても……。分かったとしても、良いことなんて何もなかったんだ。
ユウコ、本音が見えすぎるのはこの世で一番攻撃的なことなんだよ。どんな冗談も、お世辞も、本音の前ではなんの意味も持たない。
寧ろ相手からの自分への気持ちはマイナスに走り、それを知った自分は相手からを……。
負のスパイラルから抜け出すために、僕らは『外の世界』へ出たんだ。『心』を覆うことができる世界へ」
それまでの笑顔とは違う、悲しい笑い方は。彼の言う通り、私の『世界』に響かせるものがあった。
先程感じた心の奥底に響く彼の声は、今と同様、私の『世界』に響いた彼の本音だったのかもしれない。なんて。なんて……。
「儚い世界。だろう? 君が言いたいことは」
こくん。三度目の頷きは、先程までより浅い。しかし本音は。今のが一番――
「僕らの『世界』は物心がつく頃には具現化出来るようになっている。具現化のきっかけは既に具現化された『世界』を見ること。親兄弟が必ず一回は『世界』を見せてくるんだ。自分でもできるかどうか試したくなるだろう?
でも、多くの人達が、他人の『世界』に追い詰められて……誤って自分の『世界』を握りつぶしてしまうんだ。そうすると、その人の『世界』は崩壊して、精神病院に永住することになるんだ。
――ユウコがさっきまで僕の本音を感じ取れなかったのは、僕が意図的に『世界』を見せなかったからだよ。君が誤って『世界』を握り潰したら大変だからね。
……一度具現化させてしまうと、その気になれば誰の心でも読めるし、意識せずに他人の『世界』が自分の『世界』に響くようにもなる。今日、君の声を聞いた時の様に」
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